新型コロナウイルスの複製サイクル

ウイルスは、偏性細胞内寄生性があり、ウイルス粒子の状態では増殖できません。宿主(新型コロナウイルスではヒトの)細胞と呼ばれる寄生先が必要です。宿主細胞に侵入して、その細胞の機能を利用して自分を増やし、また、細胞から出て行きます。そのサイクルは図に示したように、7つの段階からなっています。

新型コロナウイルス複製サイクル

①吸着:ウイルスは、最初に、ヒトなど動物細胞表面の受容体に結合する必要があります。新型コロナウイルスでは、表面に突き出しているスパイクタンパク質が、細胞表面にある受容体、ACE2に結合することからこのライフサイクルは始まります。ACE2とは「アンジオテンシン変換酵素2」という細胞表面にある酵素タンパク質です。認識して結合する受容体はウイルスにより決まっていて、例えばインフルエンザウイルスでは上気道や下気道細胞表面のシアル酸糖鎖という構造が、HIVでは免疫細胞上のCD4というタンパク質がウイルス受容体として機能しています。ACE2はアンジオテンシンⅡと呼ばれる血圧調節するホルモン(正確にはオータコイド)の分解に関与しますが、感染により血圧が急激に変化することはないようです。また、最近の研究ではヒトが作るFurinと呼ばれるプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が切断する配列が(SARS-CoVにはなく)新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に存在することがわかり、Furinによる切断によってACE2へより強く結合し、感染が拡大したのではないかと考えられています。

②侵入:スパイクタンパク質がACE2受容体と結合した後、細胞表面にあるTMPRSS2(II型膜貫通型セリンプロテアーゼ)という酵素がスパイクタンパク質の一部を切断すると、結合の様子が変わります。これをきっかけにしてウイルスのエンベロープと細胞膜との融合がはじまり、細胞内に侵入します4。膵炎の薬として使われているナファモスタットがTMPRSS2酵素がスパイクの一部を切断するステップを阻害することで、新型コロナウイルス薬として有望であると東京大学医科学研究所から発表がありました。

③ 脱殻:感染可能なウイルス粒子が分解されてなくなり、ゲノムRNAが露出して宿主細胞の細胞質に放出されるプロセスのことを言います。新型コロナウイルスの場合、②とほぼ同時に起こるようです。

④素材の合成:このプロセスは、ウイルスのゲノムから様々な核酸、タンパク質などのウイルス粒子の材料となる部品を作り出すことを言います。生物ではセントラルドグマと呼ばれる「DNA→RNA→タンパク質」という流れがあり、複製、転写、翻訳という過程で遺伝子の情報からタンパク質が作られていますが、コロナウイルスではゲノムがRNAのために少し複雑です。次の(ア)~(エ)のステップから成ります。
(ア) RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)の合成:(+)鎖のRNAをゲノムにもつコロナウイルスはまず最初に、ウイルスゲノムにコードされているRdRpを宿主のリボソームを利用してタンパク質合成(翻訳)します。RdRpは宿主の核内にあるDNA依存性RNAポリメラーゼとは異なり、ウイルスゲノムのRNA配列を読み取りながら新しいRNAを合成していく酵素タンパク質です。
(イ) ゲノムRNAの複製:(ア)のRdRpは(+)鎖5RNAゲノムから(ー)鎖RNAを合成し、さらに(ー)鎖を鋳型に(+)鎖ゲノムRNAを合成します。RdRpの阻害剤として、ファビピラビル(アビガン)やレムデシビルが期待され、治験が行われたり、認可されたりしています。これらは、もともとは、インフルエンザやエボラ出血熱の薬として開発されていたものです。これらの原因ウイルスはSARS-CoV-2と同様にRdRpをもつRNAウイルスです。
(ウ) 転写(mRNAの合成)と翻訳(タンパク質合成):ゲノムRNAだけでなく、より短い、サブゲノムmRNAを何種類か合成します。mRNA(伝令RNA)として機能し、ヒトのリボソームを介してウイルスタンパク質合成(翻訳)のために利用されます。
(エ) 通常、ヒトなどの細胞で1種類のタンパク質の情報は1本のmRNA上にのっていてそれを元にリボソームがタンパク質を合成します。しかし、コロナウイルスでは複数のタンパク質の情報がサブゲノムmRNA各々に同時にのっていて、1本の長いタンパク質の配列情報が連続して繋がっています。宿主細胞のリボソームはそれを一気に一本のアミノ酸の鎖(ポリペプチド鎖)として合成します。これをウイルス由来の「メインプロテアーゼ」6 と呼ばれる特定の配列を切断するプロテアーゼの作用で、必要な個々のタンパク質として切り出します。この仕組みはHIVやHCV(C型肝炎ウイルス)など、他のウイルスにも見られる特徴です。また、このプロテアーゼ阻害剤は、抗HIV薬や抗HCV薬として実用化されており、新型コロナウイルスにも期待されています。

⑤組立・成熟と⑥ ウイルス粒子の放出:さまざまなウイルス粒子を構成するパーツの中で、エンベロープに組み込まれるものは、粗面小胞体上でタンパク質合成され、小胞体膜上に組み込まれます。また、ウイルスゲノムRNAにカプシドタンパクが結合してヌクレオカプシドを形成し、これを囲むように、ウイルスタンパク質を含んだ小胞体膜が切り取られ、ウイルス粒子を形成、ゴルジ装置を介して、エキソサイトーシスで細胞外に放出されます。
以上の①から⑥の過程を経て、細胞内でウイルス量を数百倍にも増幅させてから細胞外へ放出した後、また周辺の未感染の細胞に吸着して感染を繰り返していきます。



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